
うちの上さんはボク以上にミーハーなので、流行ものに弱い。いまはひと頃ほどの勢いはなくなったものの、彼女はグルーポンやポンパレといった共同購入サイトの会員になっており、同様のサービスである「GILT(ギルト)」グループのサービスにも加入していて、日々チェックを欠かさない。GILTではブランド品など、グルーポンやポンパレとは一線を画したものを扱っていたりするようだが、今回観に行くことにした舞台も、GILTで上さんが見つけてチケットを手に入れたものであった。
「お能」についてボクはまったく無知であり、興味も世間一般レベルでしかない。田舎にいたころ、中学か高校のころに学校で観に行ったような気もするが、それも定かではなく、もしかしたら今回が初めての体験だったのかもしれない。 ということで例のごとく前置きが長くなってしまったが、今回とりあげるのは銀座能楽団という集団が開催しているイベントのことについて、GWに観に行ったときのことを少し書く。
銀座能楽団は、「お能」の普及・振興を目標として、有志が集って結成された集団なのだと思われるが、「能」をまったく知らないボクなんかが観ても分かるように、レクチャー付きでカジュアルに能舞台をみせてくれる(いつもレクチャー付きなのかどうか知らないけど…)。 開催されたのは、銀座能楽堂という街中の商業ビルの上階につくられた舞台で、客席も100席ほどと小ぢんまりとした場所であった。しかしその分、舞台と観客の距離はきわめて至近で、臨場感たっぷりにお能を濃密に堪能できるようになっている。
今回イベントのテーマは「平清盛のおもかげ」と題して、平家物語にまつわる演目を集めて披露された。イベントは昼食をはさんで一部と二部に分かれ、レクチャー公演の名のごとく、トークあり、琵琶の演奏あり、「仕舞」と呼ばれる簡易な舞台ありと多彩なメニューが並んでいた。メインとなる舞台は「袴能(はかまのう)」と呼ばれる、面や装束をつけないスタイルで『経正(つねまさ)』という演目が舞われた。NHKの大河ドラマも見ていない、日本史に超うといボクであるが、素人にも分かるように親切に(簡単に)解説されるので、何となく分かったような気になって観ることができた。そのことだけでも価値ある、とてもよくできた催しであると感心した。
さて、お能というのはなんてすばらしいパフォーマンスであり、アートなんだとあらためて思い知らされた。演者の動きの様式というかその抽象性を観ていると、日本の同じ古典芸能である歌舞伎よりも、西洋のバレエダンスを思い起こされる。歌舞伎役者は舞台でその“役”を演じるが、能の演者はその役を“舞う”のだ。 バレエのような華やかさやアクロバティックな動きは皆無だが、ときにお囃子に合わせながら、ときに自身の謡に合わせながら、決して広くはない方形の舞台をそして決して多くはない所作を組み合わせながら動く姿はバレエダンスに劣らず美しい! 言葉のないバレエと異なり、能には言葉があるので本質的にはまったく異なる芸能だが、舞踊としてのバレエ、舞踏としてのお能には何か近しさをボクは感じる。
お能とバレエの近しさは何なのか。個人的に思うのは、両者とも音(楽)のともなう舞いであると感じることだ。バレエに音楽はつきものだが、今回イベントを観ていちばんに感じたことは、お能ってなんて“音”に満ちているのかということだった。 なんとなくこれまでお能には、「幽玄」という言葉に象徴されるような静かなイメージを強く抱いていたがそのイメージは間違った思い込みだった。能舞台には、うるさいくらいに音が満ち満ちている。
子供のようで恥ずかしいが、今回生(なま)で能を観て、演者が足で舞台を踏み鳴らす足拍子(の音)には感動した。太鼓や鼓ともまた異なるその足の音(ね)は、鳴らされる絶妙な間(ま)とともにあって神秘的ですらある。単に耳に届くだけではない、心に響く音であった。
そういえば、今回のイベントでテーマのひとつでもあった「琵琶」。その琵琶が打楽器であるということを聞かされて、ひとつ目が覚めた気がした。なるほど、琵琶は奏でられるのでなく、打ち鳴らされる楽器だったのか。確かに琵琶法師の弾く琵琶は、メロディを聴かせるのではなく、(平家)物語をより印象的に語り聞かせるための“拍子”をとる楽器である。そのことが今回生(なま)で演奏を聴くことによって肌で感じることができた。それはアフリカ音楽のリズム楽器にも似ているようだ。
今回はまったく予備知識もなく、興味もそれほど強くなく観たお能だったが、思いのほか楽しむことができた。映画や小説のように気軽に手軽に楽しむことは難しそうだが、機会があればもっと観てみたいものだ。次に観るときは、面や装束を纏った本格的な舞台を観たいが(高そう!)、それだとレクチャーは付いていないので自前で少し予習していかなくてはならない・・・ちょっと億劫だけど・・・ぜひ観たい。



